2024.02.10
リノベーション
リノベーション。と聞くとどんなことを想像しますかね。
「古い家をきれいにする」とか「住宅から店舗兼住宅へ改修も合わせて・・」などなど、なんとなく、「おしゃれできれいに改修する」みたいなイメージありませんかね。
リノベーションとは、「リフォーム」、というものの中の定義の一つなのですが、
「中古住宅に対して、機能・価値の再生のための改修、その家での暮らし全体に対処した、包括的な改修を行う」ことだそうです。
こんな協議会もあるので、のぞいてみるといいですね。(うちは加盟してない。。)
一般社団法人 リノベーション協議会 (renovation.or.jp)
さて、このリノベーションですが、新築とは違って、「何をどこまでやるか」によってまったく変わってきます。
①仕上げ材だけきれいにして、見た目を向上させる
②断熱改修を含めて、仕上げもきれいに改修
③構造補強・断熱改修をして、仕上げもきれいに改修
ざっくりとこの3パターンですかね。(設備は別として)
- リフォーム業界の変遷
ここでちょっと歴史についておさらい。
そもそものリフォームですが、だいたいオイルショックから住宅リフォームの専門会社が出始めたようです。1975年頃。
その後1980年頃に大手のハウスメーカーなどがリフォーム部門や子会社なんかを立ち上げていったようですね。
リノベーション自体は、1995年頃、「個性的なセンスと価値観で改修する」という定義で、東京や大阪で始まったとされています。
URLを添付した、一般社団法人リノベーション協議会は、2009年の設立です。
- 今後の住宅事情
ここ数年、資材高騰や輸送費の高騰など、今後も含めて住宅というものが手が届かないものになっていくような怖い足音が近づいてきています。「金持ちしか建てられない」みたいな。
となると、リノベーションの可能性というか必要性が高まりますね。
- リノベーションの中身
さて、前述の①~③、あなたならどれを選びますか?
「そりゃ③でしょ」、と思うでしょう。
でも、①だけのリノベーションが横行しているような気がします。
「リノベーションで〇〇」みたいなものを目にかけることがありますが、「断熱改修をして、どのくらいの断熱性能になっているか」とか「耐震改修をして、上部構造評点がいくつになった」など、そんな情報ってなかなか見かけません。
なんででしょうね。
これは勝手な私の予測ですが、「正しい断熱の知識や、その計算方法を知らない」「正しい構造の改修方法やその評価方法を知らない」んだと思います。
「は?」とお思いでしょうが、おそらくこれが現状の日本の工事会社の現実だと思います。
話を戻しますが、おそらくできないから①だけやる。ということが多いのでしょう。
(単純に費用の問題、ということも少なくはないと思いますが。)
個人的には、「③がいいが、これくらいの予算がかかるがどうしますか?」という流れからスタートするべきだと思っています。それで、お施主さんの予算やその考え方で、②・①にする、というのは本人の自由だとは思います。(予算やその他事情もあるでしょう。)ただ、やはり建造物という性質上、倒壊でもすると自分の土地だけではなく、隣地や道路などにも影響を及ぼすこともあります。極力③で行きたい。断熱についてもCo2削減なんて、個人だけの話でもないですしね。
昨日、LIXILメンバーズコンテストという、LIXILが開催している住宅施工例コンテストのグランプリを決める決勝プレゼンみたいなものがあり、WEBで視聴できるので見ていたのですが、そこでリフォーム部門の審査員長だったMs建築設計事務所の三澤文子さんが、審査後の公表で元旦に発生した能登半島地震について言及されていました。地震はいつ来るかわからない、我々が耐震改修もしっかりやらないといけない、という主旨のことをおっしゃっていて、ちょっと私自身も思うところがありました。
- 耐震改修について
ここ最近は国の補助もあって、断熱改修については進んできている気がしますが、耐震改修への補助はまだまだ十分ではありません。
参考までに、うちの会社がある茨城県小美玉市だと、
〇耐震診断 ⇒ 募集戸数:3戸 2,000円の自己負担のみで耐震診断が受けられる
〇耐震設計 ⇒ 募集戸数:3戸 耐震改修工事のための設計費の2分の1の額を補助(限度額10万円)
〇耐震改修工事 ⇒ 募集戸数:3戸 耐震改修工事費の23%の額を補助(限度額50万円)
というのが令和5年度の補助内容です。
募集戸数3戸、、、、補助金も少ない。。おまけに3戸を超える応募があった場合、抽選になります。
補助金として使いにくい、というのが設計・施工者としての肌感覚です。
実際に私自身、茨城県の木造耐震診断士として市から建築士会経由で派遣されて耐震診断を実施しています。
だいたいいつも年に1戸程度。。。。少ないですよね。。。
おそらく多くの自治体が同じような状況だと思います。
昨年、断熱改修の方の補助金は「こどもエコすまい支援事業」「先進的窓リノベ事業」という補助金が登場し、例年にない補助額となりました。今年も同じような名目で、同じような補助額が予定されています。
でもおかしくありませんか?断熱改修をするのに壁や床を解体するならば、一緒に耐震補強もすれば解体費用は余計にかかりません。ならばいっしょにやるべきだと思うんです。
でも耐震改修ってなぜかハードルが高い。
構造金物や断熱材など、「床・壁を壊さなくても補強できる」という謳い文句の製品が多く存在します。なぜなら、壁や天井、床を壊さないで工事をすることが工事業者にとってとても楽なんですね。
いや違うでしょ、と。楽に工事をして、しっかり耐震補強や断熱補強が出来ればそれはそれは素敵なことですが、えてして「前よりはよくなった」という感じです。
でもよーく施工要領などを読み込んでみてください。耐震金物なんて「柱頭柱脚の接合部については状況を確認の上、適宜補強を行ってください」みたいに、天井や床を壊さないと難しそうな注意事項なんかがほぼ必ず載っています。だいたい小さく。
確かに、天井や床を壊さなくても金物補強ができるケースもありますが。
語弊を招くかもしれないので補足しておくと、断熱改修については確かに解体しなくても、外断熱なり内断熱なりでしっかりと断熱補強をすること自体は可能です。でも結局建物荷重が増加して、地震に対してはよくないと思います。新築住宅についても2025年4月から、高断熱化による建物重量の増加により、構造に関する法律も改正になります。
ちょっと木造下地と断熱材で実際に検討してみましょう。
外壁に増し張りして断熱改修してみます。
〇下地:45×105の杉材(455ピッチ)
〇断熱材:厚さ50mmのスタイロフォーム、スタイロフォームFGで仮想定
(断熱地域区分5で、外壁の熱抵抗値R=2.2を確保できるとして)
1.0㎡あたりで仮算定すると、下地がだいたい10[kg]。断熱材がだいたい1.5[kg]。合わせると、11.5[kg/m2]。改修する住宅の外壁が仮に200[m2]くらいだとしたら、
11.5×200=2300[kg] となります。
・・・2トンです。
お相撲さんでいうと、十両力士の平均体重が160[kg]らしいのですが、実に十両力士15人分。
外壁にお相撲さんが15人常に張り付いている状態と同じです。。なんとまあ。。その重さで地震の時に揺れると思ったらぞっとしませんかね。。
無論、下地がもっと小さかったり、木下地をあまり使わずに補強したりなんかも可能ですし、逆に構造用の面材なんかも張ってさらに重くなることもあります。
でもしっかり躯体に断熱材を充填すれば下地をヘタに増やさなくても大丈夫です。
なので、解体を恐れずに、シンプルで合理的な断熱・構造に改修する方がbetterだとは思います。
別に外や内に付加断熱をすることが悪いというわけではありません。合理的に高断熱化したいとか断熱等性能等級7とかにしたいならばなおさら耐震改修も必要ですよね、というお話です。
「地震力」は主に「水平力」です。(厳密には鉛直方向にも作用します。)
となると、
地震に耐える壁を補強する(建物の重量を軽くする、という手もありますね。屋根を瓦からガルバにするとか)
⇒ 柱に引き抜き力がかかる
⇒ 柱から土台、基礎に引き抜き力がかかる etc。。。。
と力の流れが発生します。
基礎補強しなくていいのか?と。いいわけありません。だって昔の住宅は、基礎と土台がアンカーボルトでほとんど緊結していなかったりするんだもの。(緊結している物件もありますからね。)
でもこれまた、耐震補強の中でも基礎補強はさらにハードルが高い。
上部構造のみ補強して「意味がない」とはいいません。安全にはなりますから。
でも力の流れをしっかり担保してあげるのがbestだと思いますし、best・betterの説明をお施主さんにしっかり説明すべきだと思います。(個人的にはmustだと思ってますが。)
リノベーションの重要性が増す昨今だからこそ、正しい知識による提案と取捨選択による適切なリノベーションを進めたいものです。