耐震性能 | 有限会社 海老原建築

有限会社海老原建築

Column

2024.01.03

耐震性能

建築物の耐震性能。日本に住む私たちにとって切っても切り離せない建築物。
意匠性・デザインも大事ですが、耐震性能が不十分だとそもそもそのデザインも失われることになります。日本の法的な耐震性能についてちょっと確認していきます。

基本的に、耐震性能については、「建築基準法」において定められています。
現行の耐震基準は「新耐震基準」と呼ばれていて、1981年に改正されたもの。それ以前は「旧耐震基準」とされます。

改正の背景には、1978年に発生した宮城県沖地震の被害が関係しています。

宮城県沖地震の規模はマグニチュード7.4、最大震度は仙台市で観測された震度5でした。

当時の被害は、死者29人、負傷者1,100人、家屋全壊580戸、家屋半壊5,185戸、家屋一部損壊571,797戸、被災者26,342人という大きなものでした。

人的被害の多くが倒壊したブロック塀や門柱、家屋等の下敷きになってしまったことによるものと判明しているようで、より厳しい耐震基準が定められるようになった、というわけです。

私自身も茨城県の木造耐震診断士として、市から派遣されて耐震診断にいくことがありますが、旧耐震なのか新耐震なのかの確認も状況確認として行います。

ではその「新耐震基準」とはどれくらいなのか?

現行基準、つまり耐震等級でいうところの「耐震等級1」だと、「きわめてまれに発生する大地震(数百年に一度)による力に対して倒壊、崩壊しない程度」、かいつまんでいうと、震度6強程度の大地震においても倒壊、崩壊しない、という基準です。
「あれ?なら大丈夫じゃないの?」というような気もしますが、日本語は難しいですね。
建築基準法は、「人命」を最優先した最低限の法律です。要するに、倒壊、崩壊をせず人命を守る程度の最低基準です。大地震後、そのままその建物を使用していくことは難しいでしょう。

おまけに、本当にその性能があるのかどうか、というところがさらに難しい。

住宅の多くが、「4号特例」と呼ばれる特例に該当し、確認申請時に確認検査機関において構造等の審査をしなくてよい、ということになっています。審査する住宅の「基礎」「木造躯体」等の審査は一切行われません。完全に設計者と施工者に任せている状態です。
実際に、「建築基準法は違反していないが、構造的におかしい」という設計の建物は存在します。
この特例自体が悪いとはいいませんが、この特例で、設計者や施工者の構造関係についての理解が進まないのかもという気さえします。
近年の高断熱化による建物の重量化等を鑑みて、2025年4月からこの特例が縮小されることになりました。来年からは申請関係は煩雑になってきます。そこについては別の機会に。

いまは住宅瑕疵担保履行法により、基礎の配筋検査・上棟後の構造検査は第三者が介入することが多いと思いますが、その検査も、配筋自体が適切に施工されているかどうか等の検査しかしませんし、上棟後の検査も同様、設計自体がどうなのか、という検査ではありません。
「建築基準法を順守していて、構造的におかしくない」建物なのであれば「耐震等級1」でいいと思いますが。


下記は、2016年に発生した熊本地震(マグニチュード6.5)における木造住宅の建築時期別の損傷比率です。

※出展:国の熊本被害における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書より
 (※2000年6月~は接合部の仕様等が明確化された)

熊本地震は、震度7が2度計測されたという厳しい状況だったことも考えなければいけませんが、新耐震基準でも相当数が倒壊しています。
報告書でも、「2000年に明確化された仕様等に適合しないものがあることに留意し、被害の抑制に向けた取り組みが必要である」と記載があるように、施工の実情も影響が大きいところです。

(※熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書 概要 より)


上記の図を見る限り「耐震等級1」について詳しく言及するよりも、「耐震等級3」に圧倒的に被害がない、というところに目を向けた方が早そうです。

あまりに長くなってしまいそうなので、一旦ここまで。




※1月1日(月)16時10分頃、石川県能登地方を震源とするマグニチュード7.6、最大震度7の地震(令和6年能登半島地震)が発生しました。
被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。